農耕生活の知恵

 仁木町内に言い伝えられている「ことわざ」の類を収集していたところ、やはり農耕に関係あるものが一番多いようである。それらの中から主なものをひろい挙げてみると


  • 梅花が下向けば梅の豊作
  • 桜の開花が遅い年は凶作 ー 今年は梅も桜もプラムも桜桃も平年より10日以上早く開花した。こんな年は凶作か豊作か ー
  • 郭公[かっこう]鳴いたら豆を蒔け
  • スモモが咲いたら霜が降りない
  • 桐の花が咲いたら霜が降りない ー 郭公が鳴くのは平年なら5月20日前後、スモモも桐もその頃咲き、昔から種蒔きの目安にしていた ー
  • 婿えらびのように種子を選べ
  • 女の子が生まれたら桐を植えておけ ー その子が嫁入りの頃には箪笥[たんす]ができる! ー
  • 一種子[たね]、二肥料[こえ]、三手入れ
  • 苗代半作
  • 大苗に豊作なし ー ひ弱い大きな苗を育てたのでは豊作はのぞめない ー
  • 水見半作 ー 水稲では水加減が大切、その適否によって収量が左右される ー
  • 茄子は輪作、牛蒡[ごぼう]は連作
  • 陽[ひなた]ゴボウに陰[かげ]ナスビ
  • 日照り南瓜に降り(雨)夕顔 ー 農作物は敵地に適作、時にはニンジンやゴボウのように、葉を刈ったり、踏みつけたりして、徒長を抑えることも大事 ー
  • 色で迷わす漬けナスビ
  • 揉んで味だせ干大根
  • ホウズキと娘は色づくと虫がつく
  • きれいな花は山に咲く
  • 花多ければ実少し
  • オヤマ(女郎)買うなら桃買いなされ、桃にゃ毛もあり核[さね]もある ー これらは農作業唄の中などに織りこまれて歌われたという ー
  • 春の1日、秋の10日
  • 春小雨、夏夕立に秋日照り ー 稲が豊作であるための理想的な天候ー
  • 凶作は2年つづく ー 気象の変動には一つの周期があり、それが一度くずれると急に回復しないことがある ー
  • 財布と馬の腹は鳴る程よい
  • 馬は立つ程、牛は寝る程に飼え ー 牛や馬の飼育心得の一つ ー
  • 出穂みて50日 ー 穂が出て50日たてば刈り入れができる ー
  • 稲はワラ干せ、麦は穂を干せ ー 稲はワラの部分までよく乾燥せ、麦は穂だけ干して早目に脱穀するのがよい ー
  • 死に急ぎと果物の採り急ぎはするな ー 果物はよく熟したものでなければ食べる意味がない。最近は味や香りより色や形を好む傾向があるが・・・ ー
  • 高値は安値のもの ー 野菜や果物、鶏卵や豚肉など、その値の高低が繰りかえす傾向がある ー
これらは農耕生活の目安の一つとして、村の暮らしの中で果たした役割は大きかった。

 ことわざの類は、われわれの先祖たちが培い、父祖達が伝承してきた、暮らしの知恵の結晶であって、貴重な文化遺産ともいうべきものである。古きをたずね、新しきを知る方途としなければならないであろう。

スモモの花
仁木町内では5月20日前後に咲き、カッコウもそのころ鳴く。

出典:図書「ふるさと再発見」久保武夫 著, 仁木町教育委員会発行1991(H3).3, p56-57: 21農耕生活の知恵 --- 初出: 仁木町広報1983(S58).5

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