余市地方のことわざを探訪して

 筆者の子供のころ対象から昭和初期にくらべると、ことわざなど口にする人びとは格段に少なくなってきた。

 何年か前のことであるが、余市地方に残っていることわざや言い伝えの類をひろい集めてみようと、仁木町をはじめ赤井川村や余市町の古老の方々を訪ね歩いて、その聞きとり調査をした。

 2年余りもかかったが、筆者の記憶していた分も合わせるとその数、500句にも及んだ。

 ことわざの分布をみると仁木や赤井川をはじめ余市の登や豊丘の農家や漁師は、天気の影響を最も受け易い仕事に従事しており、その生活を賭けて戦っているので真剣である。

・春は一雨ごとに暖かくなる
・桜の開花が遅い年は不作
・落葉の早い年は雪も早い
・ミミズが地表にはい出ると雨
・クモの巣に水滴がかかっていれば、その日は晴
・アリの行列雨のきざし
・ハトの朝鳴きは雨、夕鳴きは晴
・ネコが騒ぐと嵐になる

 などと、植物の生態や鳥獣・昆虫類の行動など、その観察眼の鋭さに舌を巻くばかりである。

・人をとる風ヒカタ(南西風)
・ヒカタは波を飛ばし、メナシ(東風)は雪を飛ばす
・星がまばたくと大風

 など、「船底の一枚下は地獄」と言われていた漁師たちの生活は、雨や雪よりも最も恐れたのは風で、その風向き如何に神経をとがらせていた。

 ことわざの中には、人間とは、人生とは、どのように生きたらよいかという我々にとって最も大事なことなど、そのいくべき道を指し示してくれるような語句が多い。

・うかうか30(歳)、きょろきょろ40(歳)
・出る杭(釘)は打たれる
・見ざる、聞かざる、言わざる
・言わねば腹ふくる
・縁の下の力持ち
・目は口ほどに物を言う
・理屈の膏薬はどこへでもつく
・病は気から
・一に看護、二に薬
・頭寒足熱
・女は衣装髮かたち
・娘見るより、その母を見よ
・兄弟は他人のはじめ
・子供は風の子
・寝る子は育つ
・可愛い子には旅をさせよ
・子供の喧嘩に親が出る
・使うものに使われる
・昔は今の鏡
・歴史は繰りかえす
・申酉[さるとり]荒れて戌[いぬ]温[ぬる]い(平成6年は戌年)

 と、これらの多くは現代の実生活にも通づるものが多く、これはかみしめる程に味わい深いものがある。

 ことわざの類は、われわれの先祖たちが長い間かかって培い、且つ父祖たちがそれを伝承してきた。いわば貴重な文化遺産とも言うべきものであろう。

出典:図書「続・ふるさと再発見」久保武夫 著, 仁木町教育委員会発行1997(H9).12, p74-75: 26余市地方のことわざを探訪して --- 初出: 仁木町広報1994(H6).1

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