頂白山の水

 仁木町の飲用水が近隣の市町村のそれに比べて、水質がよく味もすぐれていると、とかく外来者の評判であり仁木町民もそう思っている者がおおい。

 最近「日本一うまい水」ということで売り出している倶知安や京極、真狩などの水は、元来羊蹄山の火山灰砂や熔岩のすき間をくぐり抜けてきた地下水であり、それが山麓からいっせいに吹き出しているもので、水質がよく水温も年中変わらず、しかも冷たい(昭和24 - 5両年筆者調査の時は7℃)、その上微量のミネラルが溶けこんでいるせいであろう味もよい。こうした清冽[せいれつ]で味の秀れているのが都会の人々のうけが良いのであろう。

 仁木町の飲用水は主として平内川上流から取り入れ、浄水槽を経て各家庭に配水されているが、その源流は頂白山や大黒山の山腹からの湧き水である。

 もともと頂白山や大黒山は、赤井川火山体(カルデラ)の一部で、大黒山は赤井川盆地の外輪山に当たり、頂白山はその北側に噴出した寄生火山であると言われている。従って、羊蹄山の湧水も赤井川火山系のそれも、それぞれ火山体内を浸透した地下水が湧き出したものであると言うことに変わりはない。ただ頂白山は山体が小さいため湧水の量が及ばないのが玉にきず。水質その他においても遜色がないと言えよう。

 しかし、その水量も明治の末年までは現在の数倍にも及んでいたと言われ、当時の平内川では山子[やまご](木樵[きこり])が雪解けの増水を見計らって伐木を一本流し(木流し)したと伝えられている。

 この付近一帯の山林は早くから鰊場の用材や薪炭材として切り出され余市川へ落として海岸へ運ばれていたが、目ぼしい木は次第に減り山はようやく荒廃していく。それに追い打ちをかけるように明治44年春の頂白山の山火事は、たった1日で全山焼け坊主になったばかりか麓の開墾農家30戸近くを全焼させた。

 それから70余年経過、頂白山の自然林は回復間近になっていた。

 しかし10年程前、山の樹木は皆伐されてしまった。頂白山が私有地であるが故に致し方ないとは言え、当時何とか打つ手が無かったものか、今にして思えば残念ではある。

 かつて内村鑑三は「山に樹木が繁茂しているということは、土を引きしめ雨水を保水し、木材を供給しその上気候を和らげるばかりか洪水を防止し田畑を肥やす。百利あって一害なし」と森林の効用をのべており、最近はまた、森林浴とかがブーム。滴る樹林の緑からは殺菌力をもつフィトンチッドの香気が発散されており、それは我々をすがすがしい気分にするだけでなく健康のためにも有効であるという。

 大黒山や頂白山に再び森林が甦り、その水源が養われると、平内川やフレトイ川には昔と変わらない豊かな水の流れが、きっと戻ってくるであろう。

 頂白山の緑をわれわれの手で育てることは、次の世代へ遺す最大の贈りものではなかろうか。

頂白山(余市河畔からのぞむ)

出典:図書「ふるさと再発見」久保武夫 著, 仁木町教育委員会発行1991(H3).3, p102-103: 42頂白山の水 --- 初出: 仁木町広報1985(S60).4

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